
バイリンガル教育に関心を持つご家庭が増えている今、教育移住をお考えのご家庭も多いと思います。英語と日本語の両方を話せる能力は、子どもの将来の可能性を広げるだけでなく、これからの時代にますます重要なスキルになるので、選択肢の一つに加えたいですね。
一方、生成AI技術の発展によって簡単に翻訳ができるツールが普及するようになったので、「英語学習は不要ではないか」という意見も耳にするようになりました。確かに、「日本語と英語を翻訳する」という作業は今後AIによって大きく代替されるかもしれません。ですが、直接相手の文化や価値観を理解し、コミュニケーションを取る力は、人間が稼得すべき能力です。少子化やグローバル化が進む日本では、英語を話せる能力がこれからますます重要になるでしょう。
我が家では、私の大学院留学をきっかけに家族揃って英語環境に身を置き、子どもたちにバイリンガル教育の機会を提供することになりました。失敗も成功もありましたが、この経験から得られた知見や反省点を含めてお伝えします。
教育移住という選択肢
まず、親の留学に子どもを同伴させる体験を通して、教育移住はバイリンガル教育を安定的に進めるための選択肢としてとても効果的だと思います。まず扶養家族を同伴するビザがとりやすく、学校側からスムーズに現地生活を始めるあらゆるサポート受けたり、コミュニティのメンバーとして受け入れてもらうことができます。このような環境で、子どもたちは安心して現地の学校で自然に英語を習得しながら、多文化環境に触れるための良いスタートを切ることができます。子どもがある程度の年齢に達してから留学するパターンが圧倒的に多いと思いますが、家族で異国の生活を一緒に送ることで、日本に暮らしていた時とは違う刺激を一緒に共有することができて、家族の結束が強まり、また親も子もそれぞれが成長できる機会が増えます。(注:2023年の移民法改正によりイギリスでは大学院ビザで家族を同伴することができなくなったようです。このため、ヨーロッパの他の国に移住先を変更する方が増えています)。
言語習得に最適なタイミング
時期を選べる場合、言語習得に最適な時期は子どもの年齢は、一般的に10歳前後だと言われています。その理由は、小学校の半ばまでに母国語をある程度定着させることができ、まだ頭が柔軟なうちに外国語を耳からも学べるからです。一般的に、年齢が下がるほど、現地の言葉の習得は早いとも言われますが、忘れるのもまた早いことが知られており、母国語(特に漢字の習得など)の維持に苦労することが知られています。逆に中学生くらいになると外国語を文法的に理解する論理力が高まるので、日本語力は安定的に維持することができる一方、外国語の習得は少し大変になっていきます。ただし、言語習得の臨界期は非常に長いので、何歳になっても外国語は習得できます。最も大切なのは本人のやる気ということは変わりません。
日本の学校から英語環境へ:ゼロからのスタート
日本の学校に小3と小5まで在籍し、ほとんど英語を話せない状態でイギリスに渡りました。この年齢を狙ったわけではなく、たまたま子育てがある程度ひと段落したタイミングで留学を検討し始めたという流れで時期が決まりました。そんなわけで、子どもたちは最初の1年間は、学校での授業についていくのも、友達とコミュニケーションを取るのも大変苦労していました。でも、いつしか友達ができ、意思疎通したいという気持ちが学びの原動力となり、2年目を過ぎたあたりからは英語での授業(特に英語以外の科目)にある程度ついていけるようになりました。
親のサポートがなくても成長できる環境
親が留学生になる場合、十中八九、自分自身が一杯一杯になることが想定されます。私自身も、仕事と勉強に多忙を極め、子どもたちのために日々の英語学習を直接サポートする時間はほとんどありませんでした。仕事で奥さん同伴で出向されている周りの日本人のご家庭では、子どもの勉強を見たり、手厚いサポートをされている雰囲気がありましたが、我が家は母親(私)に時間的な余裕がなかったため、逞しく現地生活を乗り切ってくれました。これはこれで、子どもたちの自信につながったのではないかと思います。いつしか子どもたちは現地の友達との関わりや学校生活を通じて、自然に英語力を伸ばしていきました。渡英数ヶ月後のときに、パソコン好きの息子(当時、ほぼ英語は話せない)が Google Translation をうまく使いながら、現地校の友達とオンラインチャットでゲームをしていたのにはかなり驚かされました。
日本語を忘れないための工夫と反省点
海外での生活の中で、日本語を忘れないようにする取り組みとして、毎週土曜日の午前にロンドンにある日本語補習校にかよったのと、帰国してからの学校探しに苦労しないようにと、日本人子女のための現地の塾に早い目に通わせました。
• 日本語補習校
ロンドンでは、毎週土曜日に日本語補習校に通う環境が整っていたため、この点はとても恵まれていました。。現地校で週5日英語に触れながら、週に1度日本語環境に戻ることで、エマージョン教育の効果を実感することができたからです。ただし、子どもには圧倒的なメリットがあるこの方法は、親にとってはかなりの負担を伴うものでした。まず、週末の半分近くが削られる、宿題が多い(毎週漢字のテスト)、何かと役員が回ってくるので、ただでさえ足りない時間と体力がさらに削がれる、という問題です。しかも、子どもが宿題をサボったり、漢字を覚えようとしない様子をみると、こちらもストレスを感じることが多々ありました。なんとか3年間通いましたが、これは娘の強い希望があったからこそで、土曜の朝はいつまでも寝ていたいという息子だけなら、早々と断念していたように思います。
そして反省点もあります。外国暮らしの安全性を考え、渡英後すぐに子どもたちにGPSを持たせたくて、何かあった時の連絡手段としてスマートフォンを持たせました。ところが、これが後から取り返しのつかない機会損失に発展してしまったように思います。当初は気が付かなかったのですが、SNSやYouTubeが使用言語の履歴に基づいてレコメンデーションを出すため、家ではすっかり日本語メディア中心になってしまいました。これが日本語や文化の維持には役立ったといえなくもないですが、せっかくの英語環境をもっと有効に過ごせたと思うと、この点はもっと改善できたように思います。
まとめ:バイリンガル教育の価値
この通り、我が家のバイリンガル教育の取り組みには、山あり谷ありではありました。しかし、現地での生活を通じて、子どもたちはある程度の英語を身につけることができただけでなく、多文化理解やグローバルな視点を育むことができたのは家族で海を渡ったからこそだったと確信しています。
自動翻訳技術が発展した世の中でも、相手の文化や価値観を理解しながら直接コミュニケーションを取る力は、これからの時代においてますます重要になっていきます。英語学習を通じて得られるものは単なる言語スキルを超えて、子どもたちの未来を大きく広げるものだと信じています。
これからバイリンガル教育に取り組もうと考えている方々に、我が家の経験が少しでも参考になれば幸いです。