USCPAのキャリアパス

とある方から次のようなご質問を受けました。他の方の参考にもなるかと思いますので、ご本人のご了承のもとで公開アンサーとすることにしました。

【Question】

現在、働きながら日本の公認会計士試験(JCPA)を目指している者です。最近、米国の公認会計士試験(USCPA)に国際会計基準(IFRS)が加味されたことにより、こちらにも興味が沸いています。私のようなただのサラリーマンが受けたとすると、米国公認会計士ではあまり役に立てないでしょうか。

【Answer】

質問者の方について、上の内容以上の事実関係を一切把握していませんが、端的に申し上げて、日本の試験を受けるか米国の試験を受けるかの判断は、将来どのような環境でどんな仕事をしていきたいかで決めるべきだと思います。

IRFSについては今や日本中の会計士や経理担当者が注目していますが、言い方を変えるとどの国のライセンスを持っていようと、後から勉強できるということでもあります。

そもそも今勉強している会計基準が5年後、10年後にも不変であるはずがないので、この点を過大に重視して大切なライセンスをどちらの国で取るかを決めるべきではありません。

もし試験取得後、日本の監査法人や税理士法人でプロフェッショナルとして採用され、顧客相手の仕事(商法監査、SOX、税務申告などのコンプライアンス業務、会計や税務のアドバイザリー業務)を目指されるのであれば、個人的には迷わず日本の資格をお勧めしたいと思います。

日本でやっていくには日本の資格の方がつぶしが効くのは言うまでもありません。

監査法人や税理士法人に入ったとして、組織の最高峰であるパートナーになるためには通常日本のライセンスが要求されます。もしくは日本国内でなら独立して個人で開業する道も開かれています。

但し、ご存じのとおり日本の公認会計士資格は、近年受験資格が緩和されたことや合格者枠が引き上げられたことから受験者が増加しているものの、依然狭き門で難関資格であることに変わりはありません。

この点、「働きながら」受験を目指すのには、日本の会計士試験はまだまだハードルが高いといえます。

一方でUSCPAは日本の資格と大きく違う点として、落とすための試験ではなく、一定の基準を満たせば合格できるシステムになっています。また、日本資格が全科目を一発で合格しなければ突破できないのに対し、米国資格は州によって細かい制限はあるものの、基本的には科目合格が可能という緩やかなルールが採用されています。

ですから働lきながら受験する人にとってUSCPAは現実性の高いオススメの制度ではあります。

ですが、USCPAの合格率の高さを甘く解釈する受験生が大変多く、合格後のキャリア形成をなめてかかると、せっかく苦労してとった資格を活かせないということも起こりえます。

USCPA については意外とキャリアパスが知られておらず、日本資格と比べてルールが緩やかだという理由で安易に手を付けてしまう人が大変多い現実がありますので、ここでは知られざるキャリアパスについて触れてみたいと思います。

一言で言うと米国資格の利用価値はとても幅広いことが特徴です。

大手会計事務所や多国籍企業の財務などでは大変重宝されるスキルであり、英語力を活かしてクロスボーダーの仕事をしてみたいという人にとっては活躍の道が広く開かれているのが特徴で、就職にももちろんとても有利です。

ただ、良くも悪くもキャリアパスの形成は本人次第。周りを見渡すと、USCPAの日本人受験者には大きく二つのパターンに分かれます。

一つは、資格取得中あるいは取得後に大手事務所の国際部門あるいは海外の事務所で経験を積み、米国会計士としてクライアント業務に携わるケース。留学中に取得してそのまま米国で就職するケースも多いですし、最近は日本資格合格者が海外赴任中などにダブルで受験する人も増えています(日本資格保有者は1年から3年で合格しているようです)。

もう一つは、就職・転職に有利な資格として目指し、外資や多国籍企業で社内的な経理や財務のポストを狙うケース。特に仕事をしながらだと日本資格を一発合格でとる負担はかなり大きいので、実現可能性の高い米国資格を目指し、英語力もアピールしながらキャリアアップを狙う人が大勢います。

最初のグループは、合格後に新人として大手や海外事務所に直接採用されるということを考えるとどうしても20代が有利です。30代でのスタッフ採用も不可能ではないと思いますが、商社や金融機関などで海外での実務経験があるとか、コンサル系の経験など即戦力となるアピールポイントが必須です。

後者の場合、US資格は実務経験をパワーアップさせるツールというような位置づけでとらえるのがいいと思います。「こんなに素晴らしい実務経験があります。さらにUSCPAの資格も取りました!」というとかなり強力ですが、「実務経験はゼロですが、度胸試しに米国資格をとってみました」などという位置づけだと、簿記に毛の生えたくらいの評価しかしてもらえない可能性もあります。

これまでに何人ものUSCPA合格者や科目合格者を面接したり採用してきましたが、日本でのリクルーティングに絞って分析すると、正直なところ、日本の会計士と比べて会計の知識や専門性ではレベルが劣るケースが目立ちます。

これはやはり日本という土壌で海外ライセンスが活かしきれないという制限があるからでしょう。アメリカにいた頃は、むしろ日本の会計士さん達が研修にきても、寡黙で英語もあまりしゃべれなくて、とても即戦力にはなりそうになかったことを覚えています。全く違う基礎トレーニングをしてきた人が、いきなり違う土俵で戦うのはなかなか難しいのが現実です。

加えて、日本の資格を取るには実力不足だという人が合格率の高い試験に逃げ込むケースの多いことが日本におけるUSCPA受験者のレベルダウンを招いているのではないかと思います。

一方で、USCPA保持者は、英語力や会計以外のオペレーションなど幅広い財務業務をやってみようという人が多いので、経理や財務の現場では重宝される人も多いと思います。但し、気をつけないとレベルの低い安っぽい仕事ばかりを任されて、気づけばプロフェッショナルとは言い難い雑用係になっていた・・・などということがないよう、注意深くキャリアを積んでいくことが大切です。

日本という土壌でプロの会計士の道を望むのであれば、大手会計事務所でスタッフ時代の経験を積めない限りは、USCPAはあまりお勧めしません。資格取得後に専門性の高いキャリアを築く道がかなり狭められてしまうからです。

でも、無資格でいるよりは有資格の方が有利であることは間違いありません。就職に有利、何か資格を手にしたい、あるいはキャリアアップのためのステッピング・ストーンとして割り切って受験するのであれば大いに結構かと思います。

まずは、ご自身の立ち位置を確認しましょう。

自分に備わった各種条件、つまり「働きながら」、「年齢(特に試験合格後の推定年齢」、「英語力」、「簿記や会計規則の予備知識」、「実務経験」、などによって合格までの道のりや合格後のチャンスは左右されます。

そして、目指すべき資格は、どのような環境でどのような仕事をしたいのかで決めましょう。

合格は単にキャリアのスタート地に立つためのチケットです。そのチケットを手にしたときにどうやって羽ばたきたいのか、そこに焦点を合わせて受験計画を立てるとよいかと思います。

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