Saïd Business School hallway

海外MBAには2千万円レベルのお金と1-2年の時間的な投資が必要だと以前に書きました。もちろんアメリカとヨーロッパ、またアジアで相場はだいぶん違いますし、私が通ったExecutive MBAやオンラインコースだとフルタイムの仕事を続けながら通えるので、お金の無駄もキャリアの犠牲も最小限に抑えることはできます。

とはいえ、MBAのポジティブな前評判を信じて投資したら、結局とてもがっかりした、という話も実はその辺にゴロゴロ転がっているのもまた事実。MBAが打出の小槌ではなく、ビジネスの思考法は教えてくれるけれど…実務を教えてくれるわけではなく、全ての職種の就職に有利なわけではないことを知っておくのは大切かと思います。今日はその辺りのことを考えてみたいと思います。

MBAは就職に有利か

と聞かれたら、一部の職種では答えはイエスであり、それ以外の職種ではノーかと思います。イエスになるケースには投資銀行やコンサルファームなど、一定の金融やプロフェッショナルサービスファームでは海外で学んだ経験やファイナンスの基礎などが優遇される傾向にあります。ただこれもケースバイケースで、中途採用では本人のキャリアパスや実務経験の方が重視され、MBAの有無で採用が決まることはあまりないんじゃないかと思います。就職の場でGMATやIELTSの点数を聞かれることはまずありませんし、本人のやる気や仕事への本気度、国際性をプラスで見せるのに役立つ、位に位置づけると良いかと思います。

MBAランキングというのがありますが、卒業後の報酬が入学時からどれくらい上がったかというのが指標の中に組み込まれています。有名大学の莫大な授業料を学資ローンで賄った学生の多くは、金融やコンサルに転職して、ローンの返済をしているのも本当の話です。私の知り合いに、サインアップボーナスで授業料を全てカバーできたという人もいますが、これは稀なケースでしょう。多くは異業種に転職したとか、社内で昇格した、というピボットが多いように思います。

就活にとってMBAとは…それくらいの意味しかないと思います。中途採用の募集では、実務経験とキャリアパスがメインディッシュで、学位はパセリくらいの位置付けといったら言い過ぎかもしれませんが、はっきり言ってそんなもん、です。

MBAは起業に有利か

では起業しやすくなるのかと聞かれたら、どちらかというとノーだと思います。むしろスタートアップの成功者は大学すら出ずに、必要なことは自力で学んだり仲間を作って実業家になるケースをよく見かけます。ビジネススクールでは、事業をスケールアップする方法や戦略思考を学ぶことはあっても…ビジネスアイデアや実装を支援してくれるわけではないので、MBAをとっても起業はまた別のものなのです。

例えば…私は遠い昔に会計士の資格をとったのですが、二、三年かけて簿記や財務諸表論、税務や商法を学び、さらにその後何年も実務経験を積んでようやく一人前になりました。これを一週間やそこらで学ぶのは、どんなに賢い人でも無理なことです。ただし、会計学がどのようなものなのかというエッセンスだけをかいつまんで詰め込むことはできます。MBAでは、会計学もファイナンスもマクロ経済もミクロ経済も、全てを短期間で詰め込むので、どうしても浅く広くしか学ぶことができません。

ビジネスにかかるあらゆる分野のことを、息を止めて一気に学んでいくことで、一種の悟りの境地に立ちます。あらゆる分野に一応のアンテナを貼りつつ、「あー、自分は何も知らないんだな」と気づかされ、ビジネスには多様な能力を持つ人によるチームワークが必要なのだと思うのです。全身が脳みそだとまずくて、頭もあれば手足も必要で、臓器がそれぞれに機能していることが大事だということで…とどのつまり、自分一人では何にもできない、ことを再確認するのがMBAなのかもしれません。

だから、「卒業後は起業しよう!」とか息巻いても、MBAで学んだ会計学だけでは帳簿一つ作れないし、フィンテックの教科書を開いて知的財産を作り始めることはできません。マーケティングのクラスも取ったけれど、マーケターとしてキャリアを積み始められるかというと、前職が全く違うと転職も難しいでしょう。世の中そんなに甘くない現実はMBAをとっても変わりません。

MBAなんて全くの捨て金だった…という意見は、この学位への勘違いから出ることが多く、即効性のある学位だと思うと痛い目に遭います。特に、卒業後にチームワークの不要な仕事についたりすると(職人的な仕事や個人開業など)、ほぼメリットを感じることはないかもしれません。深く実務的なことを学びたい人は資格試験を受けて実務経験を積むのがよく、MBAはジェネラリストに向いてます。

MBAは何のために

MBAは大学機関にとってはドル箱であり、そこに入った学生ができるだけ卒業後にこれまでよりも高い報酬の職につける循環を何とか維持することで高い授業料を維持しています。色んな人が色んなことを言うMBAですが、まぁ、授業料は相当高いですよね。

かくいう私も。子どものために学費として貯めておいた方がいいんじゃないかという葛藤が常にありました。また。MBAがお金と時間的投資に見合ったものだったかと言われると、今のところは同じ仕事を継続していて、失ったものもなければ給料にプラスに作用したということもありません。この後、起業に失敗するかもしれず、そうなったら、MBAで変な知識を入れなきゃよかった、なんて思うかもしれません。

でも、今はこんなふうに考えています。人生で大きな投資をして、がむしゃらに突き進んだ結果、その先に待っているものが、俗に言う「失敗」だったとして、どうせやるなら「良い失敗」をしたいということです。何かに一所懸命取り組めば、次につながるものに出会えるだろうし、やらない後悔より良いかな、ということです。それに、「成功」するまでやり続ければよいのです。

ただ、途中でエンストするのは避けたいので、そのためには十分な策を練り、小さく手堅くスタートし、周りに支援者の輪を広げてて、大切にスケールアップをしていくしかありません。そういうときの考え方の知恵をMBAは授けてくれたように思います。昔は勉強する機会すらなかった統計や回帰分析、チーム作りに必要な心理学、経済学の知識…どれも浅くて広いのですが、どのドアを開ければ良いかの検討くらいはつくようになりました。チャレンジャーとしての道を歩くことを選んだ時、MBAって結構使えるじゃん、というように思えます。