「千住家の教育白書」

なんという素敵な家族・・・♬

こんな父と母に育てられたら、子ども心の芯まで満たされて、その子どももまた同じように育てられたら世の中から争いがなくなるんじゃないかとさえ思えるようななんとも自然体な家族のあり方が『千住家の教育白書』に描かれています。

長男が日本画家、次男が指揮者、長女がバイオリニストといずれも「世界的」とつく芸術家一家のことは、なんとなく耳にしたことはありましたが深いことはよく知りませんでした。

以前に「鳩山家に学ぶ教育法」を読んで、同じように「立派な」家庭のハウツー本かと思って手に取ったところ、期待は180度裏切られ、なんというか度肝を抜かれるレベルの本でした。

ご主人が亡くなられた後に、奥様の文子さんが本書の執筆が自分に残された遺言であったと感じて書かれたこの本には、それぞれの子育てのエピソードが文子さんの記憶に沿って書かれています。子どもたちの日常を全面的ににない、子育てに向き合うの文子さんなのですが、人生の節目で必ずお父さんの深い人生観に触れる場面が出てきます。

(妻に向かって)子どもは親の所有物じゃない、(子どもに向かって)逃げずに頑張れ(と、敢えて茨の道を推奨)、など。

人の死生観というものがブレない家族の軸となり、そこに芽を出した三つの異なる才能がこんな風に花開いていったのだということを知って、そのことがまるで奇跡のように感じます。お父さんやお母さんの存在、祖父母の見守り、家庭環境、恩師や友人との出会いなど、どれ一つが欠けてもなし得なかった奇跡のように思われます。

でも、このご家庭の何が素晴らしいと言って、あくまで子どもがそれぞれの人生をしっかり歩んで自分で成功を手にした(そうできるように親が全力で応援した)という点かと思います。子育てのノウハウや計算はなく、むしろ「え?こんなに準備不足で情報不足の状態で・・・まさかここまで丸腰で挑んだ?」と驚くような逆境を、家族愛と個々人の情熱と努力で乗り切るという怒涛の家族史というドキュメンタリーです。

解説にも書かれているのですが、このお母さんの目に映る3人の子どもたちは、世界的画家や超一流の音楽家ではなく、あくまで「ヒロシ」、「アキラ」、「マリコ」という元気に走り回る子どもたちの姿。著名な芸術家になれるよう、なにか逆算して英才教育を施したというような姑息な支配はなく、また、賢くなれ、偉くなれ、スキルを身につけなさいという傲慢もなく、ただひたすら子どもを信じて必要な手を貸すだけの謙虚な親の姿がありました。

もし自分の子どもに非凡な才能があるとして、こんな風に暖かく見守り、その芽を潰すことなく伸び伸びと育てることができるんだろうか、と思わず自問。

もちろん千住家を世の中の水準に照らすと、もともとが経済的に恵まれたエリート一家という事は否めません(平凡な家庭とはスタートラインが違う)。

ご主人は慶應大学の教授で、子ども三人も幼稚舎からストレートで進学、男の子二人は東京芸大への進学を目指して何年も浪人しますが、「9浪して入る人もいるから諦めるな」といえる太っ腹な親は少数派です。芸術家の素養を育めたのも小学校からの私立一貫教育という恵まれた教育的環境という要因は大きければ、子どものお稽古ごとにここまで付き合うことのできるのは専業主婦ならでは。近所に実家があるというのも家庭の安定感につながります。

でも同時に、経済的、社会的に恵まれた家庭が陥りがちなエリート意識や奢り、ブランド志向という物事の本質を見誤ってしまいがちなところ、そういうまやかしに一切ブレないところが素晴らしい。また文子さんがものすごく素直に、まるで師に従うようにご主人の生き方に賛同し、それを聞き入れて子育てをされていくのが感動的で、こんな師と弟子のような夫婦関係もあるんだなぁ、と感じ入りました。

ちなみに真理子さんがバイオリンを手にしたのは2歳の時で、お兄さん二人についてバイオリンのレッスンに通ううちに興味を持ち、小学校の時に出たコンクールで奇跡の入賞を果たすエピソードが書かれています。さぞかし英才教育だったのだろうと思っていたのですが、小学校低学年まではあまり練習もせず、冷やかしで出ることになった最初のコンクールで本人に火がつき、周囲が驚くほどの集中力を発揮して朝から晩までレッスンしているうちに、周囲の目の色が変わるくらいのレベルに変身したと書かれています。

そして、それぞれの子どもたちが「極めたいもの」を見つけたときの情熱や集中力にはスゴイものがありますが、「やるなら本気でやりなさい」と声がけするお父さん、そしてそれを実践するために教室通いや日々のレッスンにとことん付き合うお母さんの姿は、子どものやりたいことをサポートするために徹底的に自分を無にできる母性の塊に思えました。

以下、後半に書かれていることの抜粋です。

「人にとって何が一番大切な事であったのか・・・・・・。

子どもが芸術家になっても、化学者になっても、医者や法律家になっても、同じことであった。料理人になっても価値に変わりは無かった。

大切なことはほかにある。

どんな人間になるかということである。

そして、親がどんな人間に育てるかであった。

難しい教育は、優しい愛情より劣るのではないか。

過ぎた日、私は夫とそんな話をしたことがあった。

愛があれば、子どもを叩いても虐待ではない(私たちは子どもを叩いたことはない)。

愛がなければ子どもの頭をなでても、良い子は育たない。すべての鍵は愛である」

なんというか自分のしてきた子育てには沢山の的外れがあったことに気付かされました。この本に出会えて嬉しいです。

 

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「千住家の教育白書」」への1件のフィードバック

  1. 一歳の娘の受験について色々調べていた際に、こちらのブログを見つけました。もう考え方や教育方針が素晴らしくて、夜更かしして一気にたくさんの記事を読ませて頂きました。これからも更新を楽しみにしています。とても感激して、思わずコメントさせて頂きました。

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