「選択の科学」とクアトロテスト

先日、このブログで『選択の科学』という本について書評 を書きました。

 

「選択する」という日常的な行動が研究テーマになっているところが面白かったし自分の選択プロセスの精度をあげれるのかな?という甘い期待もあって読んだのでした。

厚手で内容の濃い本で大半は行動経済学的なエピソードが多かったのですが、(人は選択肢が多いほど選択できなくなるという、有名な「ジャムの研究」など)後半の内容は思いのほか深い内容で、人命に関わる選択を医師に委ねた場合と親が積極的に関与した場合のケーススタディ(子供の延命措置をめぐるアメリカとフランスの比較研究)について、重要な意思決定をした人にその選択が後々どのような影響を及ぼしたかというようなお話でした。

結果的には、医師の主導で意思決定を下した親たちはそれが子供の運命だったと言う風に受け止める傾向が強い一方で、インフォームド・コンセントが主流となっているアメリカではまるで自分たちが死刑宣告に加担したというような罪の意識にかられる親が多かったと言います。

当たり前ながら、「選択をする」という行為には、今日の夕飯はカレーにしようかなというような他愛のないものから人命にかかる選択まで幅広くありますが、その責任というものは本人についてまわるという点では同じなのですね。

最近、東尾理子さんのブログ で反響を読んでいるクアトロテスト(胎児の染色体異常について確率をだすための検査母体血清検査)について、上の本に書かれていたことをあらためて考えさせられました。

妊娠中の女性なら誰しも一度は不安にかられる胎児の異常の可能性について妊娠中の早い段階で検査をする方法がいくつかあってその1つが、クアトロテストと呼ばれるものなのですが、陽性反応が出た場合、「何人中に一人の割合で染色体異常(ダウン症など)の可能性があります」という確立が分析され、次のステップとして羊水検査(お腹に針をさして羊水を取り出す検査)をすればさらに詳しい検査結果を手に入れることができます。

ただし胎児に針が刺さったり、流産の原因になる可能性も指摘されているのでこの検査自体がリスクフリーではないようです。

理子さんの場合は、お家で話し合いをされて羊水検査はせずにどんな結果になっても受け入れようという決断をされたということで実際に同じような経験をされた方々に勇気を与える結果になっていて、有名人ならではの役目を果たされているのかもしれません。

でも、そういう結論に達したのであれば、そもそもクアトロテストをなぜ受けたのかな?という気がしてしまいます。

じゃあわたしも受けてみようかな、という人がいたとしたら気軽に受けてほしくない検査です。

仮に全ての項目に陰性反応がでたとしたら、それは大きな安心材料になりますが人間の「知りたい」という欲求を叶える代償として、万に一つ、知りたくないことを知ってしまう可能性も当然あるわけですね。

それを知ってなお覚悟を決めて生むとすれば称賛に値するのかもしれませんが、上はあくまで確率論の検査なので、結果的には杞憂に終わることもあり、さらには羊水検査まで進んで、子供を生むかどうかの判断をする人たちも多いです、というか、これらの出生前診断はむしろその判断を助けるために準備されているもと考えられます。

そして、結果次第でどういう判断をするのかを夫婦でしっかりと決めた上でしか受けてはならない検査だといえます。

『選択の科学』にでてくる極めてヘビーなエピソードの引用に昔メリル・ストリープが出演した『ソフィーの選択』という映画があります。

刹那的でどこか自虐的な生き方をする謎の女性メリル・ストリープの過去が明らかになっていくという設定のなか、こんな回顧シーンが出てきます。

ユダヤ人収容所に収監される途中のメリル・ストリープが自分はポーランド人だからどうか見逃してほしいとドイツ人将校に懇願する。

その将校は「よし、それでは名誉あるポリ公に敬意を払って、二人の子供のうち長女か長男かどちらをガス室に送り、どちらか一方を助けるという特権をやろう」という意図的に悪意に満ちた提案をします。

彼女が「とても選べない、選べない」と涙ながらに繰り返すなか「それでは子供をふたりとも連れて行け」という指示がくだり、二人の子供が連れ去られようとするその瞬間に彼女は一人の子供を選んでしまいます。

ですが、彼女のその後の人生がどれほどの後悔と罪悪感に満ちたものになってしまったかというのがこの映画のハイライトです。

クアトロテストを始めとする一連の出生前診断について考えた時、わたしの頭にはいつもこのソフィーの選択がよぎります。

だから、選択というテーマ研究者として、アイエンガー博士が究極の選択の代名詞としてこの映画を引用してきた意味は非常に大きいと感じました。

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